続・金の斧と銀の斧
金の斧と銀の斧の物語はご存知かと思う。
この「金の斧と銀の斧」のお話のあらすじは次のようなものである。

あるきこりが池のほとりで木を切っていたが、手を滑らせて斧を池に落としてしまう。

困り果てていると、なにやら女性みたいな姿形の何者かが現れて池に潜り、金の斧を拾ってきて、きこりが落としたのはこの金の斧かと尋ねた。

きこりが「それは私のではない」と答えると、その女性みたいな何者かは再び池の底に潜り銀の斧を拾ってきたが、きこりは「それも違う」と答えた。

最後に失くした鉄斧を拾ってくると、きこりは「それが自分の斧だ」と答えた。
女性みたいな何者かはきこりの正直さに感心して、三本すべてをきこりに与えた。

この話を聞いた悪いきこりは、わざと斧を川に落とした。

女性みたいなのが金の斧を拾って同じように尋ねると、そのきこりは「それが自分の斧だ」と答えた。
女性みたいな何者かは呆れて何も渡さずに去り、恥知らずなきこりは自分の斧をも失った。
というものである。
この話の教訓は、正直者には恩賞があり、不正直な者には罰があるというものである。



さて、この「金の斧と銀の斧」をちょっとばかり具体的に検証してみたいと思う。

この画像の斧を一般的な斧とすると、重量1.6kg、販売価格は約2万円。
柄の部分は木製で、金属部分は鉄製。鉄製の部分だけだと約1.5kg。

平成24年1月時点でのスクラップ鉄の相場はだいたい1kgあたり25円前後。
ということは「25円×1.5kg≒37.5円」。
上記の斧の鉄の部分をスクラップして売って、まあせいぜい40円程度。
斧としての価格は、そのほとんどが製作料といったところであろうか。

さて、ここに上記の鉄の斧と同じ大きさの金の斧と銀の斧があるとする。
金の比重は鉄の約2.5倍。
銀は同じく約1.3倍。
大きさが同じだと仮定すると、金の斧の金の部分は鉄の約2.5倍の重量、つまり約4kg。
同様に銀の斧の銀の部分は約2kg。

2012年1月24日現在の金の相場は近年になく高値が付いていて、1グラムあたり4,150円強、銀のそれは1キログラム当たり81,000円前後。

【直近20年の金の相場変動グラフ】

ちなみにプラチナは1グラム3,900円程度、銅は1キログラム当たり650〜700円。
鉄のスクラップは1キログラム当たり25円前後。
金の斧の金の部分は4kg。市場の相場が1グラム4,150円。
ということは「4,150円×4,000グラム≒1,660万円」!!
現在の市場相場にあわせると金の斧の金の部分の価値はなんと1,660万円也!!
これを美術品としたとき、その価値はおそらく最低でも2,000万円以上にはなろうかと思われる。
銀の斧なら銀の部分の価値だけで16万2千円也!!。
これも美術品としたときは最低でも20万円以上はするだろうと思われる。

【金のプレートが山積にされているが、このプレート1枚が1kg。1kgの時価約415万円。上記画像に映っているだけで一体いくらの価値があるのだろうか??】

つまり、正直者が池から現われた何者かに貰った金の斧と銀の斧の2本の合計金額は、金属の価値としての時価総額にして約1,700万円也!!である。

次に硬度を考えてみる。
最も硬い物質はご存知のとおりダイヤモンド。
このダイヤモンドの硬さを10とすると、鉄は4〜5、銀は2.5〜4、金は2.5〜3となる。
といういことは、硬さは鉄のほうが金や銀よりも1.5倍〜2倍程度の硬さがある。



結論を言えば、鉄ほどの硬さもなく、重さも2.5倍になってしまう金の斧は、きこりにとって全く実用性のない使い物にならない無用の長物となる。

銀の斧の重さは鉄の斧とそんなに変わらないので、いざというときには鉄の斧の代用になるかもしれないが、切れ味は悪くなる。



はてさて、池の中から突然現われた何者からもらった「金の斧と銀の斧」の2本セットをきこりはどうしたのだろうか?
あるサイトできこりの賃金を調べたところ、仕事内容は「森林に係わる全ての作業(植栽、下刈り、除伐、枝打ち、間伐)」として、月給約20万円(保険関連・手当て等の特別支給等の細かいことはこの際は考えないとして)。
この賃金で「金の斧と銀の斧」のセットと同じ額である1,700万円を稼ぐとしたら、85ヶ月(7年1ヶ月)かかる。
月給20万円として1,700万円稼ぐのに7年1ヶ月という期間を長いと見るか短いと見るかは個人差があると思うが、私見を述べるなら「たったそんなものか!?」という感想を持つ。



きこりは「金の斧と銀の斧」をどうしたのか?

もし売ってしまったとしたらどうなるか?
かつて中南米で黄金文明として栄えたインカ帝国やアステカ帝国は、その黄金のためにスペイン人に滅ぼされてしまった。
彼らは侵略者である白人を見て「神の化身」と勘違いし、最上級のおもてなしをして迎えた。
侵略者である白人は彼らの純粋素直な「勘違い」を逆手にとって、有りっ丈の金銀財宝を集めさせ、それを奪っただけでなく、彼らの土地と命を奪ったのであった。
彼らの純粋素直な心があだとなってしまったのだった。

なので、もし「金の斧と銀の斧」を手に入れたことを知られてしまったら、さっそくスペイン人がやってきて強奪し、池の大捜索が行なわれるに違いない。
もし池を捜索した結果、何も無かったとしたら、きこりの命が危ない。
また、売ったとしてもたかだか7年ほどの稼ぎと変わらないのであれば、売るほどのものでもなかろう。
さりとて売って現金にしたところで、酒とギャンブルにハマって人生破滅するだけだ。
なので純粋素直な心の持ち主であるきこりは「金の斧と銀の斧」を売ることはなかったのであった。

では家宝として大切に保管したのか?
それでもいずれは誰かに知れ渡り、上記の結果を招くであろう。

もし「金の斧と銀の斧」によってきこりの人生が破滅することとなれば、それは麻薬とかわらない。

池から現われた何者かは本当に親切にきこりに「金の斧と銀の斧」を授けたのだろうか?
きこりの人生がもし破滅してしまったら、池の何者かは「ほう助罪」が適用されかねない。

突然池から現われた何者かが、「あなたは正直者だ」と言って時価総額約1,700万円もする「金の斧と銀の斧」のセットを渡されてきたところで、いくら純粋素直だからと言っても「はい、どうも」と言って受け取ることはできない。
怪しすぎる!



結局きこりはどうしたのか?
「金の斧と銀の斧」はもともとあった池に投げ返し、何事もなかったようにいつもの生活に戻った。
つもりであった。
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ところがまたまた池から何者かが現われて「あなたの落とした斧は、この金の斧と銀の斧ですか?」と尋ねてきた。「そうですが・・・」ときこりが答えると、「あなたは正直者だ。正直者のあなたにはプラチナの斧とダイヤモンドの斧を差し上げましょう」と言って半強制的に受け取らされてしまった。
「いりません!」
きこりは受け取らされたプラチナの斧とダイヤモンドの斧を池に投げつけた。
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 ↓
 ↓
するとまたもや池から何者かが現われて「あなたの落とした斧は・・・」と言いかけた言葉をさえぎって、きこりは「ふざけんな!!」と言って帰ってしまった。

その後ろ姿を池の何者かは悲しいような恨めしいような目で見つめるのであった。

この物語の本当の教訓は、「わけのわからない者を見た目だけで信じてはいけない。その者はあなたの純粋な心に入り込んであなたが不幸になることを望んでいる」というものである。
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